藻類の太陽光エネルギーを吸収する仕組み解明 カーボンニュートラル実現に期待
理化学研究所(理研)の川上恵典研究員らの研究グループは、多くの藻類に含まれる太陽光エネルギーを高効率に吸収するタンパク質複合体「フィコビリソーム」の中心およびアンテナ部位の立体構造を明らかにし、光合成の初期過程である光エネルギーを吸収する仕組みを解明した。この知見を人工光合成研究に取り入れることで、高効率光エネルギー伝達デバイスの開発に貢献することが期待される。科学雑誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』オンライン版に6月17日付で掲載された。
好熱性シアノバクテリアが持つフィコビリソームは、光を吸収する発色団フィコシアノビリンを持つ「フィコシアニン」と「アロフィコシアニン」、および内部構造を安定化させる「リンカータンパク質」で構成される。このフィコビリソームの発色団はフィコシアノビリンのみだが、光化学系タンパク質である光化学系Ⅰと光化学系Ⅱが吸収しにくい光の波長を吸収し、光化学系タンパク質へと高効率かつ超高速で伝達できる特徴を持つ。この仕組みを明らかにするため、長らくフィコビリソームの解析が行われてきたが、このフィコビリソームは非常に巨大で、かつ不安定なことから、これまでのタンパク質構造解析で用いられてきたX線結晶構造解析では立体構造が分からなかった。
今回、タンパク質などの生体分子を、水溶液中の生理的な環境に近い状態で観察するため、日本電子のクライオ電子顕微鏡を用いて、和歌山県湯の峰温泉で採取された好熱性シアノバクテリアのフィコビリソームを解析した。使用した装置は国産のクライオ電子顕微鏡の一号機でさまざまな初期問題を抱えていたため、安定稼働のために技術開発を行った。こうして4600枚の高品質な画像を取得することができ、得られたタンパク質の粒子像からフィコビリソームの中心部位であるコアとアンテナ部位の立体構造を調べた。
その結果、フィコビリソームの発色団がフィコシアノビリンだけで構成されていること、および周辺のタンパク質環境の違いによって個々のフィコシアノビリンの吸収波長が変化し、光エネルギーを光化学系タンパク質へと効率よく伝達するシステムを構築していることが明らかになった。また、このタンパク質環境の違いは主にリンカータンパク質によって作られており、リンカータンパク質はフィコビリソームの構造を維持するだけでなく、発色団の吸収波長を変化させる役割を担っていることも明らかになった。
この研究で得られた知見を人工光合成研究に取り入れることで、今後、可視光を利用した光エネルギー伝達デバイスの開発が進展するものと期待される。さらに、水素生産や二酸化炭素の還元を可能にする触媒と連結させれば、太陽光エネルギーを利用した物質変換デバイスの開発が可能となり、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが進展すると期待される。
画像提供:理研(冒頭の写真はイメージ)