トンガ海底火山噴火による電離圏擾乱が高速で伝わるメカニズムを解明 名大ら
名古屋大学は14日、2022年1月に発生した南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴って生じた気圧波と同期した同心円上の電離圏擾乱が地球規模で広がっていく様相を、全球測位衛星システム(GNSS)などのデータを解析して、捉えることに成功したと発表した。
日本で電離圏擾乱が観測されたタイミングは、音速に近い気圧波が到来する約3時間前だった。これは、オーストラリアから日本に地球の磁力線沿いに1000km/sの速さで電離圏の擾乱が伝わったことを示している。この研究成果は地球科学の総合国際学術雑誌「Earth, Planets and Space」に13日付で掲載された。
地球大気圏の高度80Km以上の上部には太陽放射によって電離層が形成されていて、全球測位衛星システム(GNSS) 、衛星放送・通信で使われている電波はこの領域を必ず通過する。電離層が激しく乱れる擾乱が発生するとGNSSの位置情報に誤差が生まれることがあり、これを逆手に取ってGNSS受信機網データを活用した電離圏擾乱の研究が進められている。
電離層は太陽活動による影響を受けるだけでなく、地震、火山噴火、津波、台風などの気象現象といった下層大気で発生した大気擾乱の影響も受ける。これは地震で発生した津波が下層大気を揺さぶることによって大気振動(音波)や大気波動が生成され、それらが上空の電離圏に伝わることで、電離圏電子密度擾乱を引き起こすと考えられている。
名古屋大学宇宙地球環境研究所 新堀淳樹特任助教らの研究グループは、情報通信研究機構、電気通信大学との共同研究により、世界各地に設置されている約9000台に及ぶGNSS受信機データを解析して全電子数(TEC:電子の柱状数密度)をデータベース化した。また、気象衛星ひまわり8号の赤外輝度温度データと北海道陸別町に設置された電離圏観測用レーダー(SuperDARNレーダー)のデータも使用した。
電離圏擾乱が高速で伝わるメカニズムが明らかに
解析の結果、オーストラリア上空で気圧波の波面に沿った電離層電子密度変動が観測された。そして午前8時10分と午前9時の時間帯では、それとは別に日本上空で西向きに伝播する電離圏擾乱が観測された。この二つの電離圏擾乱は磁気的な赤道を挟んで鏡像関係にあり、これは南北両半球の電離圏擾乱が磁力線を通して結合していることを意味している。
さらにSuperDARNレーダーから得られた電離圏荷電粒子の速度データから、北半球における荷電粒子の運動が、南半球で観測された気圧に伴う電離圏擾乱に同期していることがわかった。
この結果から、日照域の南半球において気圧波が生成した大気擾乱(音波や大気波動)が下層の電離圏を揺さぶることで電場が生成し、その電場が磁力線に沿って南半球の上部電離圏、そして北半球の電離圏に高速で伝わり、電離圏擾乱を引き起こしたと考えられる。
また磁力線に沿って伝わる電磁波(電場)の速度は、600~1000km/sと、下層大気を伝わる音速(315m/s)に比べて圧倒的に速いため、南半球で生成された電離圏擾乱のシグナルをいち早くキャッチできたことになる。
津波研究と防災研究の今後
これまで火山噴火、津波、気象現象によって発生した大気波動は、単に直上付近の電離圏を揺さぶるだけで、電離層の南北両半球の関係はないと考えられていた。ところが今回の研究結果から、TEC観測によって電離圏擾乱での南北両半球の関係性が示された。同グループは今後、それらがどのような条件下で発生するかの研究が期待されると述べた。
さらに、この結果は科学面だけでなく、防災面においても意義があるとした。磁力線を介して伝わった電離圏擾乱は、津波を引き起こしたとされる火山噴火由来の気圧波が日本へ到来する約3時間前に観測された。このことから、今後、複数の火山噴火や地震の際の電離圏擾乱の統計解析を実施することで、津波の波高や規模を電離圏擾乱のシグナルからの推定が可能になれば、到来する前に津波に関する情報を予め得られることを示唆しているとした。
画像提供:名古屋大学(冒頭の写真はイメージ)
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