物理学最大の謎「暗黒エネルギー」の正体解明に迫る実験手法を提唱
華中師範大学(中国湖北省武漢市)の桂川大志准教授は、広島大学などとの国際共同研究により、現代物理学最大級の未解決問題の1つである「暗黒エネルギー」の正体を探る手法を提唱した。暗黒エネルギーの特徴を持つ新粒子を、将来的には地上実験で直接検証できるという。米国の科学雑誌「フィジカル・レビューD」に8月3日付でオンライン公開された。
膨張する宇宙と暗黒エネルギー
宇宙が膨張している根拠となった「ハッブル・ルメートルの法則」に加えて、場所によらず光度が同じIa型超新星の観測などから、現在の宇宙は加速的に膨張していることが知られている。この加速膨張は暗黒エネルギーによって説明されるが、その正体はいまだ不明である。これまでの観測で、暗黒エネルギーは10のマイナス33乗電子ボルトという極めて小さなエネルギーながら、現在の宇宙のエネルギー密度収支の約7割を占めていることが分かっている。暗黒エネルギーの候補として、アインシュタインは「宇宙定数」と呼ばれる時間で変化しないエネルギーを提唱したが、そのエネルギーの小ささや現在の宇宙における占有率の説明が困難だった。これに対し、「修正重力理論」と呼ばれる一般相対性理論を超える重力理論が予言する暗黒エネルギーは動的な性質を持つ。
暗黒エネルギーと光の相互作用を検証する手法を提唱
研究チームは、修正重力理論の代表であるF(R)重力理論に着目した。この理論では、暗黒エネルギーは「カメレオン」と呼ばれる新粒子として記述され、周囲の物質密度に応じて質量が変化し、光とも相互作用すると予言されている。この相互作用は重力結合程度(2つの素粒子間で働く電磁力と比べて、重力の強さは10のマイナス36乗程度)と極めて弱く、これまで地上実験による直接検証は困難と考えられてきた。しかし、波長の異なる2つのマイクロ波を混合する容器内のガスの種類と圧力を操作して周囲の原子密度を変化させ、質量変化を人工的に誘発する「マイクロ波誘導共鳴散乱」の構想では、将来的にはこの相互作用を検証できる精度にまで到達可能であるという。想定したガス圧によって、カメレオンの質量は、真空中の暗黒エネルギースケール10のマイナス33乗電子ボルトから、27桁上の10のマイナス6乗電子ボルト程度にまで増大し、観測される信号の急峻な圧力依存性から質量変化が地上実験で検証可能になると分かった。また、質量が変化しない他の新粒子との区別も可能であることを示した。
地上実験の実現がもたらす可能性
修正重力理論に基づく暗黒エネルギーが、地上実験で直接探索可能になると、既存の宇宙論的・天体物理的な手法によって得られる観測的制限とは完全に独立した実験的制限を与えることが可能になる。さらに、期待される実験精度が実現された場合、既存の地上実験から得られる光と非常に弱く相互作用する(カメレオンも含む)超軽量新粒子に対する制限を10桁以上更新することも可能になる。つまり、同一手法により暗黒エネルギーだけでなく、暗黒物質をも探索網にかけられる可能性があるという。
画像提供:広島大学(冒頭の写真はイメージ)