侵害性アリの防除に有効 環境負荷の少ない忌避物質を在来アリから発見
筑波大学、神戸大学などの研究グループは8月30日、日本の在来アリの体表物質の中にアルゼンチンアリやヒアリなどの侵害性アリが激しく嫌う忌避物質となる成分を発見したと発表した。これを応用すれば、既存の殺虫剤と違い生物学的多様性を損なうことなく、侵害性アリだけをターゲットとする環境にやさしい防除に役立つと期待できる。
国際的なグローバル化の中で国境を越えた物流が常態化し、それに乗じて侵害性アリの侵入、定着、繁殖が全地球規模で進んでいる。侵害性アリとは、原産地から世界各地に侵入、定着して生息域を拡げつつ、人や家畜の生活圏、在来生物の生息域に入り込んで、生活環境や健康の安全・安心を脅かすアリの総称。既存の生物多様性の喪失や生態系の崩壊を進める原因となる。日本ではアルゼンチンアリが1993年に確認されて以来、国内で生息が拡大している。さらに毒性の強いヒアリの侵入も2017年以来複数回確認され、その定着が心配されている。
侵害性アリの対策は、他の害虫駆除と同様に毒餌や殺虫剤散布による駆除が主流となっているが、一旦定着・繁殖を許してしまうと、一部を殺虫処置してもすぐに周囲からの再侵入が起こるため広範囲に継続的に薬剤を散布する必要があり、労力やコスト、環境負荷が大きくなる。
研究グループは、殺虫剤に比べてこれまで重んじられてこなかった忌避剤の効用に着目した。アリがもつ敵・味方識別本能を逆手に取った、「仮想敵効果」を有する無毒の忌避剤を開発しようとした。日本在来種であるクロオオアリが、「敵・味方識別フェロモン」としている体表の炭化水素成分35種類を化学合成するなどして準備し、それらに触角で触れたアリの行動を調べた。そのうち(Z)-9-トリコセンに対して、50μgでほとんどのアリが忌避行動を示した。
また、アルゼンチンアリが定着している神戸・ポートアイランドで野外実験を実施した。粘着トラップを(Z)-9-トリコセンを周りに塗布したものと塗布しないものを用意して、隣り合わせて戸外に2週間放置した。塗布しない粘着トラップには多くのアルゼンチンアリが捕獲されていたが、塗布した粘着トラップにはほとんど捕獲されていなかった。
さらに侵害性アリ3種、在来アリ3種について(Z)-9-トリコセンによる忌避効果を調べたが、アルゼンチンアリとヒアリには強い効果がみられたのに対し、他のアリには50μgまでの処方では忌避効果がほとんど見られなかった。
これらのことより、(Z)-9-トリコセンを忌避剤として用いて、アルゼンチンアリやヒアリに対して自主撤退を促す「仮想敵バリア」を作ることができる。この物質はアリが常時分泌している無毒の物質なので、無差別な毒性をもつ殺虫剤に比べて環境負荷は遥かに小さい。忌避剤の開発は殺虫剤の使用量を効果的に抑えることにつながり、安全性やコスト、環境負荷の観点からも侵害性アリ防除の新しい切り札になることが期待される。
画像提供:筑波大学(冒頭の写真はイメージ)
参考記事:マイクロカプセル化したわさび成分シートがヒアリの侵入を防除(2022/4/30)