トンガ噴火による津波から、85年前に提唱された特殊な大気波動を発見 京大など

京都大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究グループは13日、20221月に発生した南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火において、理論的に予言されていながらも、今まで実在が確認されていなかった特殊な大気波動「ペケリス波」を引き起こしていたことを発見したと発表した。この波動は日本付近で観測された海面変動に関与した可能性がある。

トンガの大規模火山噴火では「ラム波」という特殊な波によって地球規模で伝播する津波が発生し、地震で起きる通常の津波よりも早く伝播して、火山から遠く離れた場所でも津波が観測された。多くの大気波動が大気中を3次元的に伝わる中で、ラム波は地表面上を2次元的に水平方向のみにエネルギーを保ったまま遠方に伝わる波であり、核実験の監視のためにも観測されていた。

1937年にペケリス博士がラム波の他にもう一つ数割程度遅い速さで水平方向に伝わる波があることを理論的に導き出した。このペケリス波は鉛直方向において下部成層圏を境に上下で位相が180°変わって、上部成層圏で大きな振幅を持つという特徴がある。この波の存在は現在まで確認されたことがなく、実在するか否かは気象力学においての長年の疑問だった。

同研究グループは、大規模火山噴火から12時間程度の間に気象衛星「ひまわり8号」が観測した輝度温度データを解析し、火山から同心円状に音速より少し遅い速度(約315m/s)で遠ざかるラム波と一緒に、その8割ほどの速さ(約245m/s)で遠ざかる波を発見した。

その波がペケリス波かを確認するために、鉛直方向の対流圏・成層圏・中間圏・下部熱圏の温度構造を含む高解像度全中性大気モデル(JAGUAR)での火山噴火を模した数値シミュレーションを行った。その結果、ラム波とペケリス波の各々の理論計算と整合した鉛直構造を持った圧力変動が再現され、それらが「ひまわり8号」で観測されたのと同じ速さで太平洋上を広がる様子が再現できた。

この研究により、一部の気象学者にとって「幻の大気波動」であったペケリス波が海面における大気と海洋の共鳴現象によって、思いがけず大きな海面変動「気象津波」を引き起こしていた可能性が示唆された。また、この研究のシミュレーションによって、世界のどこかで強い火山噴火が発生したときに、いつどこにどれくらいの海面変動が到達し得るかの検討が可能になり、沿岸防災対策などへの貢献にも繋がると期待できる。

画像提供:京都大学(ひまわり8号が観測した9.6μm輝度温度の10分差を噴火後約4時間の時点でプロットしたもの(20221150840分~0830分の差、時刻は世界時)

 

参考記事

トンガ海底火山噴火による電離圏擾乱が高速で伝わるメカニズムを解明 名大ら2022.07.19

トンガ火山噴火から考える、新たな津波研究の必要性 防災科研と東大2022.05.17