[書評]「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」地域デザインの先へ
地域には、「デザイン」という言葉にうさん臭さを感じてしまう場所や、デザイナーが「私という存在=デザイン」と言い切ってしまうくらい、デザインという行為が浸透していない場所がある。そんなところで、伝統産業や地域の商店のプロダクトデザイン、広告デザインのみならず、コミュニケーションのハブとなって活動する「おもしろいデザイナー」たちがいる。
例えば、大分県の開通前のトンネルで地域体験型ツーリズムを実施したデザイナーもいれば、新潟市で明治時代から作られていた砂糖菓子をリブランディングして、取引数を100倍に飛躍させたデザイナーもいる。コトやモノのデザインだけではなく、会社の構造自体も問い直し、新しい働き方をデザインするデザイナーもいる。彼らに共通するのは、地域の課題を見つけ、それを解決するために地域の住民とゆっくり対話をしながら、さまざまな形で課題を解決していることだ。成果物はフリーペーパー、イベント、コミュニティスペース、伝統工芸品の継承などさまざま。
本書はそんなデザイナー21人が、自身の活動を記したものだ。21人もいれば似たような話がありそうだが、そんな懸念は吹き飛ばすくらい多彩な活動ばかり。小さな商店街から県単位まで活動の幅は異なるが、「地域の顔をしているデザイン会社に」という思いでやってきたデザイナーたちの活動は、成果物を生み出す過程の人々との対話を通じて、いつしか彼らの仕事になっていったような印象を受ける。「デザインの続きをしようじゃないか」「デザインの続きがきっともっと楽しい」と言わしめる「おもしろい地域」にはまってしまった彼らは、デザイン会社という単位を超えて、周囲を巻き込み、周囲に巻き込まれ、ついには「会社」という形までも変えてしまっている。まだまだ挑戦は続いているし、活動が大きくなるにつれて悩みも増えていく。それでも、前に進みたいと思えるおもしろさが地域にはあるように感じる。
編著:新山直広、坂本大祐
発行日:2022年3月20日
発行:学芸出版社
(冒頭の写真はイメージ)