室温でCO2からメタノール合成、カーボンニュートラルへ一歩 東工大
東京工業大学(以下、東工大)は11日、パラジウム(Pd)とモリブデン(Mo)の金属間化合物触媒を用いて、8.9気圧と25℃という温和な条件の下で二酸化炭素(CO2)からメタノール(CH3OH)を合成することに成功したと発表した。この触媒は、簡便な合成法、高い化学的安定性、CO2の低温での活性促進といった望ましい条件を兼ね備えている。
大気中へのCO2の排出量と、大気中からのCO2の吸収・除去量の差し引きをゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年までに実現することが目指される中、CO2を資源として利用する機運が高まっている。CO2から合成可能なメタノールは、化学原料として多様な利用先がある他にも、エネルギーを輸送・貯蔵する手段であるエネルギーキャリアとしても期待されている。
CO2を水素化するメタノール合成は発熱反応であるため、熱力学的には低温で進行する。しかし、CO2は強固な二重結合を持つために水素化を促進することが難しかった。
東工大の研究グループは、パラジウム(Pd)とモリブデン(Mo)からなる金属間化合物が優れた低温メタノール合成触媒として働くことを発見した。新触媒ではPdとMoは交互に積層した六方細密(hcp)構造をしていて、大気下で高い化学的安定性を示した。しかも、この触媒は簡便な手法で合成が可能だ。
この触媒は従来からのPd触媒が活性を示さない100℃以下での低温域でのメタノール合成を著しく促進することがわかった。常圧で60℃以上からメタノールを生成し、加圧によって活性が向上する。8.9気圧の条件下では室温(25℃)でも50時間以上に渡り断続的にメタノールの生成が確認された。
反応機構としては、まずCO2が一酸化炭素(CO)に分解され、続いてこのCOが水素化されることによってメタノールが生成される。前者にはMoが、後者にはPdが関与するため、MoとPdが交互に並ぶ層状構造が有利に働いていると考えられる。
これまで室温でCO2からメタノールを合成できる触媒の報告例がほとんどなく、この分野に大きなインパクトを与える結果が得られた。今後はメタノール生成の活性化の機構を解明し、低温でのメタノール合成の研究をさらに加速していくとしている。
(写真はイメージ)