アジア地域のメタン収支評価で新手法を開発 国立環境研究所など
国立環境研究所と海洋研究開発機構は16日、アジア地域の地表から排出されるメタンを、物質循環モデルや排出イベントリに基づくボトムアップという手法を用いて、詳細な分析を実施したと発表した。メタン排出量削減などのための科学的知見として役立てられることが期待される。
温室効果ガス排出削減対象として、二酸化炭素(CO2)に次いでメタン(CH4)への注目度が高まっている。メタンは温室効果が強く、また対流圏オゾンなどの大気質にも影響を与えている。農畜産業や廃棄物などの人為起源だけでなく、泥炭地や永久凍土など様々な自然起源の放出によっても発生しており、それらを広い範囲にわたって個々に評価することが困難だった。近年では大気観測データに基づくトップダウンといわれる手法でメタンの収支の推定が行われているが、その妥当性を確認するために収支を推定できる別の手法が求められていた。
国立環境研究所と海洋研究開発機構の研究グループは、ボトムアップ手法として、自然起源の野外火災・湿原など、人為起源の農業・家畜など10種類のメタン放出源・吸収源を評価の対象とし、それぞれについて個別に評価を行った。ボトムアップ手法とは、地表におけるガスの放出源と吸収源を個別に評価し、その合計値として収支を評価する方法。各々の放出源・吸収源について緯度経度0.25度(約25km間隔)のマップを作成し、それらのマップを国境データと重ねて集計することで国・地域別の収支を計算、さらに東アジア・東南アジア・南アジア・中央アジア・西アジアの5領域について集計を行った。
2001年から2021年までの期間においてのメタンの収支を集計した結果、その放出の約83%が人為起源によるものだった。そのうち最も大きなものは化石燃料採掘による放出で、炭鉱やガス田からの放出や輸送時の漏出などが原因と考えられる。次いで水田からの農業起源によるもの、反芻動物の家畜からのものとなる。また、廃棄物・埋め立て地からの放出も大きかった。マップ上の集計では、水田や都市などが分布する領域が明らかに強い放出源となり、それ以外にも化石燃料の採掘地、湿原、野外火災などでスポット的に強い放出を示す領域が見られた。
この研究成果は、メタン放出削減の緩和策の基礎となる科学的データとしての活用が期待される。また、大気観測によるトップダウン手法に対する検証材料として利用することもできる。
画像提供:国立環境研究所(冒頭の写真はイメージ)