貴金属を使わない高性能なアンモニア分解触媒を開発 東工大

東京工業大学は7月28日、貴金属を使わずに、水に安定でかつ高性能なアンモニア分解触媒を開発したと発表した。既存の触媒に比べてアンモニア分解反応の動作温度を140℃以上低温化することができる。この研究成果はドイツの科学誌のオンライン版に掲載された。

2050年までにCO2の排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するために、化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして着目されているのが水素だ。そのため、水素を安定的・低コストで貯蔵・輸送する技術についても研究が進められている。水素と窒素から合成されるアンモニア(NH3)は、室温・10気圧程度で液化することから、水素の貯蔵・輸送を行うための物質として有望視されている。しかし、アンモニアから効率よく水素を取り出す有用な技術が確立されていないことが課題だった。

アンモニアを分解し水素を取り出す反応は、吸熱反応であるため反応温度を高温にするほど効率よく進行する。ルテニウム(Ru)触媒がアンモニア分解反応を非常に効率よく促進するが、Ruは希少で高価な貴金属であるために、安価な非貴金属を用いた触媒の開発が求められている。その候補として安価なニッケル(Ni)を用いた触媒があるが、Ruより効率が悪く、800℃以上の高温で作動させる必要があった。

東京工業大学の研究グループは、六方晶チタン酸バリウムの酸化物の酸素イオンの一部を窒素イオンに置き換えた酸窒化物を担体として、そこにNiを加えた触媒を開発した。

この触媒は350℃付近からアンモニア分解活性を示し、580℃においてほぼ100%のアンモニア転化率に到達する。この触媒により動作温度が140℃以上低温化された。

反応機構解析の結果から、従来の触媒ではNi表面でのみ反応が進行するが、新触媒では担体とNiの界面に存在する窒素空孔サイトでアンモニア分子が活性される機構であることがわかった。

また新触媒について実際の運用を想定して大気や水にさらされた際の安定性について検討したところ、触媒を水に1時間浸してから乾燥させた後でも元の触媒とほぼ同じ触媒活性が得られた。

この研究で開発された酸窒化物を利用する触媒技術は、非貴金属を用いても低温で高効率に動作し、水に暴露しても触媒活性が低下しない極めて安定な触媒であるため、実用プロセスへの応用にも期待できる。酸窒化物は蛍光体の母材や光触媒材料として長年にわたり研究されてきた経緯があり、同グループは、この研究で実証した触媒設計を指針としてより高性能なアンモニア分解触媒の開発が期待できるとしている。

 

今回開発した酸窒化物(h-BaTiO3−xNy)の結晶構造と、酸化物(h-BaTiO3−x)および酸窒化物(h-BaTiO3−xNy)の外観写真

画像提供:東京工業大学