下水疫学データで新型コロナ感染者数を推定 北大調査

北海道大学の研究グループは、札幌市の下水中新型コロナウイルス濃度が同大学病院の新型コロナウイルス感染者数と高い相関を示すことを明らかにした。7月25日に環境科学の専門誌において発表した。

今年の5月から新型コロナウイルス感染症は5類感染症に移行し、それに伴い感染者数の把握方法が全数把握から定点医療機関からの週一度の報告に切り替わった。また、ワクチン接種率の向上や病原性の低い変異株の流行により、症状が現れない不顕性感染者や軽症者の割合が増えることが予想されている。これらの状況により、以前よりも新型コロナウイルスの流行状況の把握が難しくなることが懸念されている。

北海道大学は感染状況を把握するための手法として、下水中の新型コロナウイルスを高感度で検出する技術を民間と共同で開発した。これまでの調査で、札幌市の都市下水中の新型コロナウイルス濃度と市内の新規報告感染者数との間に強い相関関係があることを明らかにした。

今回の研究では、下水中新型コロナウイルス濃度と個別の医療機関の感染者数の間に関連があるのかを調べた。2021年2月から2023年2月までの2年間にわたる札幌市内5カ所の下水処理施設の流入下水と、北海道大学病院の外来患者、入院患者、医療従事者及び学生の新型コロナウイルス感染者数の関連性を調査した。その結果、札幌市の下水中新型コロナウイルス濃度と同院の感染者数の間には強い正の相関が認められた。さらに、両者の相関を前後3週間ずらして検討したが、同一週で最も強い相関を示すことが分かった。これにより、都市下水中のウイルス濃度がその地域の個別の医療機関における感染者数をほぼリアルタイムに反映しており、医療機関にかかる検査・医療の負荷を測るための指標となり得ることを実証できた。

研究グループによる札幌市の下水ウイルス濃度の調査結果の一部は、「下水サーベイランス」として市のウェブサイトで公開されている。5類移行により感染動向が見えにくくなることが医療機関にとっての課題となることが考えられるが、下水疫学調査は個人の受診行動や検査体制の影響を受けずに集団の流行状況を把握できるため、感染動向の実態を「見える化」できる手法だ。感染対策の新たなツールとして今後の広がりに注目したい。

画像提供:北海道大学(冒頭の写真はイメージ)