インクジェットプリンター技術の応用で細胞へ薬物送達 京大などが新技術開発
京都大学は5日、インクジェットプリンターの技術を応用して細胞膜に穴を開けることなく薬物を送り込む技術を開発したと発表した。これまで困難だった細胞内分子を標的とした高分子薬への幅広い応用が期待できる。この研究結果は米国化学会誌にオンライン掲載された。
創薬研究が盛んになり新しい高分子薬が開発されているが、細胞膜を通過させて高分子薬を細胞内に導入することは困難だった。これまでは細胞に針を通して目的薬物を導入する方法や、細胞に高電圧をかけて細胞膜構造を不安定にしてから目的薬物を取り込ませる方法が代表的だった。これらの方法は確実性が高く細胞内導入効率が高い一方で、熟練した技術が必要、作業効率が低い、細胞生存率への影響が大きいなどの問題があった。
大阪公立大学、京都大学などの研究グループは、インクジェットプリンターが写真などを精密にきれいにプリントできることに着目し、その技術を薬物送達に利用しようと考えた。まず始めに、クラスターテクノロジー社製のインクジェットシステムを用いて、蛍光標識した膜透過性(FHV)ペプチド(ペプチドはアミノ酸が複数個つながったもの)を、培養したヒトのガン細胞に吐出して細胞内移行を観察した。その結果、液滴の吐出スピードが増すほど、細胞膜通過および細胞内への移行効率が上昇することが確認できた。
次に、実際にガン細胞を細胞死に誘導するためのPADペプチドの細胞内導入実験を行った。PADペプチドは細胞内に入ると、ミトコンドリアの膜を損傷させ、細胞死を誘導する働きがある。しかし、PADペプチドだけでは細胞内への移行効率が極めて低く、抗ガン剤として役に立たない。今回の研究では、PADペプチドに FHVペプチドを結合させ、さらにインクジェットシステムを用いたところ、高効率にガン細胞群に導入し細胞死を誘導することに成功した。一方では、FHVペプチドを結合させていないPADペプチド単独の場合は、インクジェットを用いても導入効率が低く、細胞死を誘導できないことも確認した。
さらに、分子量が約15万といった巨大分子である抗体も、細胞膜を不安定化する膜透過性ペプチドとインクジェットシステムを用いることで、ガン細胞内に高効率で導入が可能であることが確認できた。
この研究の成果は、基礎研究から医学・薬学での臨床応用までのさまざまな薬物送達に応用できる、波及効果の高い技術になることが期待される。
画像提供:京都大学(冒頭の写真はイメージ)