ホモ・サピエンスの石器技術の革新プロセスを特定 名大
名古屋大学はヨルダンとの共同研究で8日、ホモ・サピエンスがユーラシアに広がり始めた後、約4万年前に石器の小型化によって製作効率が上昇したことを明らかにした。この時期は、ネアンデルタール人などの旧人が姿を消した時期とも重なる。また、当時のホモ・サピエンスの技術革新が、複数の段階を経たことも示唆するという。この成果は2月7日付で英科学誌「Nature Communications」に掲載された。
現生人類は、30~20万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスのみだが、5万年前にはネアンデルタール人やデニソワ人といった旧人や、フローレス人という原人も存在していた。しかし4万年前頃にホモ・サピエンス以外の人類は絶滅した。この時期に何があったのか?
従来説の1つに、ホモ・サピエンスの脳に突然変異が起こり、高度な認知機能が生じたという「認知革命」説がある。直接的な証拠はないが、間接的な証拠として中部旧石器文化から上部旧石器文化への変化が知られている。例えばヨーロッパでは、上部旧石器文化として石刃(細長い石製ナイフ)や骨角器といった道具が増加し、貝殻ビーズなどの装身具、楽器、彫像、洞窟壁画が発達した。アジア各地に拡散したホモ・サピエンスが航海技術や海産資源の利用、森林資源の利用などを発達させたことも明らかになってきた。しかし、こうしたホモ・サピエンスの技術革新がいつ、どのように生じたのかはほとんど分かっていなかった。
研究グループは、石器製作の技術革新がいつ、どのように起きたかを定量的に示すために、刃部の獲得効率の変化を調べた。当時の石器は岩石を打ち割って得られる剥片を用いるので、一定量の岩石からどれだけ長い刃部を得られるか、5千点以上の石器を計測した。その結果、ユーラシアに広がり始めた上部旧石器初期(約 4.5 万年前)のホモ・サピエンスが使っていた石器は重厚で刃部獲得効率が低く、それ以前の中部旧石器後期の刃部獲得効率より低いか同程度だった。その後、上部旧石器前期(約 4 万~3 万年前)に刃部獲得効率が上昇していた。この時期、小石刃と呼ばれる小型石器の技術が発達したが、石器形態に関わる属性(長さや幅、厚さ、打面サイズなど)と刃部獲得効率の相関を調べた結果、刃部獲得効率の増加は石器の小型化によって達成されたことが明らかになった。
以上から、石器の製作技術の飛躍的な革新があった後にユーラシア各地にホモ・サピエンスが広がったのではなく、その前に拡散し始めていたということになる。このことは、ユーラシアに広がったホモ・サピエンスの文化的な進化が「一度の革命的出来事」だったのではなく、複数の段階や試行錯誤を伴っていたことを示唆する。
画像提供:名古屋大学