太陽光で硝酸からアンモニアを生成、排水の再資源化に期待 大阪大
大阪大学は4日、工場排水中の硝酸から常温常圧でアンモニアを生成する光触媒技術を開発したと発表した。これにより、排水の無害化や再資源化が期待できる。この研究成果は米国科学誌に公開された。
アンモニア(NH3)は化学肥料の原料として重要な他に、近年では再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うエネルギーキャリアとしても注目されている。NH3の合成法として知られるハーバー-ボッシュ法は、高温高圧で大気中の窒素(N2)を触媒変換するが、極めて大きなエネルギーを必要とする。そのため、常温・常圧下で安価な原料から合成する技術が求められている。
その一方、硝酸(NO3–)は工業排水に多量に含まれる酸性有害物質である。従来は中和した後に微生物などによりN2へ還元することで無害化して環境中に排出されてきた。このNO3–をNH3に変換することができれば、排水の無害化・再資源化とともに、窒素資源循環を行うための新たな技術となる。
大阪大学の研究グループは、光触媒によるNH3合成のための技術開発を進めてきた。今回は、天然に存在する鉄さびの一種であるβ-オキシ水酸化鉄(β-FeOOH(Cl))に注目した。これは八面体から構成されるトンネルサイトを持つ中空型結晶であり、トンネル内に塩化物イオン(Cl–)を内包し「塩化物イオン内包型鉄さび」と呼ばれる。
これに表面酸素欠陥(OVs)を形成させたβ-FeOOH(Cl)-OVs触媒を、NO3–とCl–を含む溶液に混合させて光照射を行うことにより、水を還元剤として、理論式(HNO3 + H2O → NH3 + 2O2)どおりにほぼ100%の選択率で、NO3–をNH3に変換できることを見出した。反応メカニズムとしては、光触媒によってホールと励起電子が生成、NO3–が表面酸素欠陥に吸着して励起電子によってNH3が生成されることがわかった。
この研究を通して、太陽光エネルギーにより、NO3–排水を原料として、安価な鉄さび触媒とCl–を使ってNH3を効率よく合成できることが明らかになった。研究グループは、これまで無駄に排出されていた排水中の硝酸を再資源化することが可能になり、今後は社会実装に向けてさらなる活性向上を進めていくとしている。
画像提供:大阪大学(冒頭の写真はイメージ)
参考記事:窒素―アンモニア変換効率の向上に成功、CO2フリーへ期待 大阪大(2023.03.20)