[書評]新しい森づくりの選択肢『スギと広葉樹の混交林 蘇る生態系サービス』
6月5日は「環境の日」であり、6月の1カ月間は環境月間と定められている。環境について考えて行動してみようと、毎年行政や市区町村などでは様々な啓発活動が実施される。
この記事では、環境の日にちなんで、私たちが暮らしの中で関係している森林について取り上げた書籍、『スギと広葉樹の混交林 蘇る生態系サービス』を紹介する。
「単層林」と「混交林」。なぜ、混交林にするのか?
ここ数年、林業業界でキーワードになっているのが「混交林」だ。これは一般的にあまり使わない用語なので、馴染みのない方も多いことだろう。
森林には、生えている樹種や木の年齢(樹齢)によっていろいろな呼び方があり、特に同じ樹種で同時期に植えた樹齢のそろっている森林を「単層林」と呼ぶ。日本の森林面積の3割を占めるスギやヒノキなどの針葉樹が生えている森林がこれに該当する。単層林は人工的にスギやヒノキを植えて、ある程度育ったら木材として収穫する目的で作られることが多く、他の樹種の木は全く生えていない。
一方で、混交林とはこの対照となるような森林の形式で、スギやヒノキだけの森をところどころ伐採して、その空いたスペースに広葉樹の木を自然にはやす、あるいは人工的に植えるなどしていろいろな樹種が生えている森林のことである。今、スギやヒノキの単層林を、様々な木が生える混交林に変えていこうという流れが日本に起こっている。
なぜ、混交林にするのか。その理由は伐採した後に植林する人手が不足している、また針葉樹の需要が少ないなど様々であるが、一つは同書の副題にもあるような「生態系サービス」の回復があると、同書の著者である東北大学名誉教授の清和研二氏は述べている。生態系サービスとは自然環境から得ている人間が生きていくうえで必要な恩恵のことで、食料や水の供給、気候調整やレクリエーションの場の提供など、私たちの生活に不可欠のものだという。
清和氏は自身も北海道や東北の森で暮らし、長く森林生態系について研究をしてきた。同書の中で紹介されている研究結果によると、スギやヒノキの単層林を様々な樹種の入り混じった混交林にすることで豊かな生態系サービスが回復するらしい。スギやヒノキなど特定の樹種だけだと、土壌への有機物の提供も少なく、根の張りも浅いので山の表層を水が流れ、土砂災害などの災害が起こりやすい。
一方、混交林にすることで落葉の量が増え、それが分解されて土壌中の有機物が増し、土壌中の多様性が回復する。そして様々な木によって土壌中の栄養分がまんべんなく利用され、その結果、森林から流れ出る水に余計な養分が含まれず、きれいな水が川へ流れるようになる。このほかにも、スギ林には住むことができなかった動物が混交林化した森には棲むことができるようになることで、里の鳥獣被害の軽減が期待されるなど、単一の樹種だけで構成された森が失った多面的な機能が復活してくると、同書で言及している。
混交林にすることで豊かな生態系サービスの回復を
同書では、東北大学の試験林で行われた研究結果を解説しながら、単層林をどのように混交林化するのが良いのか、根拠を元に提示している。木材の収穫量の違いも検討し、木材生産としての役割は果たしたうえで、木材生産を重視するがゆえにバランスを崩して不自然な環境になってしまった単層林からの持続可能な森林への転換を進言している。
森林についての基礎知識があり、森林政策や林業に携わる人がこれからの森作りを考えるときに読んでほしいのはもちろんだが、それだけではない。都市部に住む人も農村に住む人も、直接、森林に関わることのないとしても、その影響を少なからず受けて生きている。
森林の種類によって異なる生態系が出来上がり、それによって私たちが得るものが変わってくるという、生態系サービスの仕組みを知るうえで役に立つ1冊ではないだろうか。
『スギと広葉樹の混交林 蘇る生態系サービス』
著書:清和研二
発行日:2022年9月20日
発行:農山漁村文化協会
(写真はイメージ)