[書評]『二十億光年の孤独』18歳の少年が見つめた孤独と宇宙
日本を代表する詩人、谷川俊太郎氏が2024年11月13日に92歳で亡くなった。1931年に哲学者である父、谷川徹三氏の長男として東京で生まれ、1952年に詩集「二十億光年の孤独」でデビューした。その詩のまなざしは温かく、地球全体、宇宙までも飛び回り、孤独を詠いながらも天まで届くような不思議な感動を抱かせる。
「二十億光年の孤独」は、1950年18歳になった著者が書き綴ったものである。集団生活に馴染めない性格で、教師への反抗、不登校から、夜学部に転学しやっと高校を卒業した。大学進学も拒否し、自立したいと願いながらも、親のすねをかじって生きるしかなかった。そんな毎日を支える趣味が、模型飛行機作りとラジオの組み立て、そして詩を作ることであった。ある日、父が将来について問いただした時、毎日書き留めていた大学ノートの詩を見るようになる。その瑞々しい詩に才能を感じ、友人の詩人三好達治氏にノートを渡す。それが本の出版に繋がった。筆者は、まさか詩で生計を立てていくことになるとは思ってもいなかったという。
本書の中で谷川氏は心から詩を信じたり、詩に惚れこんだりしたということはなく、これからもないだろうと述べている。詩において問題にしているのは詩そのものではなく、生と言葉の関係なのだという。詩は作者の決勝点であり、理想である。バラの詩は、本物のバラのその匂い、色、重さ、触れ結ばれることもできることに比べれば、偽物である。言葉は、我々にバラを思い出させ、より深く結びつけることができるが、言葉は決してバラそのものになることはできない。バラは沈黙している。言葉は我々を本物のバラの沈黙へと導くためにあるのではないかという。
本書の詩で、谷川氏は電車を地球に譬えて詠んでいる。今はその電車を降りて、祈りを届けた神様と詩について語っているだろうか。
こんなきれいで明るい電車に
みんなやっぱり同じ目的で
乗りあわせたのだし(中略)
明るい風景の方へ運転したい
こんなきれいで楽しい電車を
汚く傷つけ
暗いトンネルの中で故障させるなんて
僕には全く耐えられません
――みんなの電車
みんなのおんなじ 一つの電車
ああ 予備もないせめて祈りを
(本書「電車での素朴な演説」より)
はるをこえて
しろいくもが
くもをこえて
ふかいそらがはなをこえ
くもをこえ
そらをこえ
わたしはいつまでものぼってゆけるはるのひととき
わたしはかみさまと
しずかなはなしをした(本書 詩「はる」より)
『二十億光年の孤独』
著者:谷川俊太郎
訳者:W.Iエリオット 川村和夫
発行日:2008年2月25日
発行:集英社
(写真はイメージ)