
がんの位置を10倍の精度で特定 治療効果も高める新しいがん診断薬
京都府立医科大学等の研究グループは、放射線治療の効果を高める世界初のがん診断薬を開発した。この薬は治療が効きにくい抵抗性がんの位置を高精度に特定し、治療効果を高めながら副作用も抑えることができるという。『ACS nano』に論文が公開された。
一部のがんは、抗がん剤や放射線に強い「抵抗性」を持ち、通常より多くの放射線を使った治療が必要になる。これは、がん内部に「低酸素領域」ができることが要因だが、この低酸素部分を正確に見つけるのは難しく、がんのどの部位を重点的に治療すれば良いのかが分からないというのが課題だ。
従来のがん診断は、がんに集まりやすい薬に放射性物質をつけ、その放射線を捉えるPETやSPECTと呼ばれる手法が使われている。この薬に低酸素領域を特定できる「NI誘導体」を追加する臨床研究が行われてきたが、脳などの中枢神経に悪影響を与える可能性があり安全性に課題があった。また、PETやSPECTは放射性物質を使うため特別な設備が必要であり、位置の特定精度が数mm〜1cmとあまり正確ではなかった。
今回研究グループは、低酸素領域に集まりやすいNI誘導体に、MRI造影剤として使用される「酸化鉄ナノ粒子」と中枢神経系への集積を阻害する「ポリグリセロール」を組み合わせた新しいがん診断薬を開発した。この薬は、NI誘導体が本来持つ低酸素領域への集積性と放射線治療の増強効果を持ち、欠点だった中枢神経への悪影響を抑えることが確認された。さらにMRIを使用したことにより、がんの位置を0.5mm以下の精度で特定することもできた。
開発された診断薬は従来の10倍以上の精度でがんの位置を特定できるだけでなく、放射線治療の効果も高める。 精度が高められたことで放射線が効きにくい抵抗性がんにも、がんだけを狙って治療できるため、周りの正常な細胞へのダメージを減らすことが期待される。研究チームは今後、薬の成分を改良し、安全性と効果をさらに高めて、次のステップである臨床応用に繋げていきたいとしている。
(写真はイメージ)