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「小さな大自然」を自らつくり出す奈良公園のシカ。秘密はシカのふんの中に。

 花冷えのする4月中旬に奈良公園を訪れた。たくさんの人懐こいシカが出迎えてくれる。約1000頭もの野生のシカがこの奈良公園に生息し、国の天然記念物となっている。
 1000頭ものシカがいるが、不思議とふんはそれほど多くない。しかもシカのふんは清掃していないそうだ。理由は、ファーブル昆虫記で有名なフンコロガシの仲間である糞虫(ルリセンチコガネなど)が約40種生息しており、シカのふんを食べてくれているからだ。また、微生物やミミズなどにより分解され、芝などの肥料としてリサイクルされているという。
 また、奈良公園の木の下には下枝や下草がなく、遠くまで見通しが良い。この景観が保たれているのは、約2mまでの下層植物や下枝をシカが食べてくれているからだ。これを奈良では、「鹿摂食線(ディアーライン)」と呼んでいる。シカが外敵から身を守るために、見通しを良くしているとも言われている。
 シカの主食は園内に生えている芝だ。芝は本来は刈らなければ成長しないが、シカが食べることですくすく育つ好循環が生まれた。もしこの芝を業者に委託して刈るとしたら年間で100億円もの費用がかかるが、シカが食べてくれるため、芝刈り作業は不要だという。
 このようにして、奈良公園ではシカとふんと芝がうまく循環しながら生態系をつくり出している。
 奈良のシカは春日大社の神の使いとされ、古代から大切にされてきた。かつてはシカを故意に殺した場合は死罪にあたる重い刑罰が科せられた。また、なんらかの原因でシカの死体が偶然に自分の家の前で発見された場合、その家主は罰金として「三文」を徴収されるという掟があったそうだ。そこで各家の主は毎朝早起きして、家の前にシカの死体が無いか確認し、もしシカの死体があれば、こっそり隣の家に移した。最終的に一番遅く起きた家の家主が罰金を払うという羽目になる。「早起きは三文の得」ということわざはここから生まれたという説もある。

「小さな大自然」を自らつくり出す奈良公園のシカ

「小さな大自然」を自らつくり出す奈良公園のシカ