【寄稿コラム】ドイツ―難民支援の現場から(3)-ベルリンでボランティアに参加する(後編)
ベルリンの難民緊急宿泊施設で食事当番のボランティアをするという経験を通して筆者は、難民支援の現場を見る機会を得た。急場しのぎのはずのエアドームの中には、生活に必要な電気、水道が完備されており、食事も想像していた以上に気の利いたものが出されていた。
筆者が食事当番を経験した日は平日の金曜日。この日のお昼のメニューはライスサラダとチキンのミートボール、プチトマトやニンジンなどの生野菜にピタパンだった。
食事の配給が始まると、お盆を持った人たちがカウンターの向こうに並び出す。もう何カ月もここでボランティアを続けているという50代男性のウルフは、配給を受ける若い男性が「ハロー(ドイツ語で友だち同士に使うくだけたあいさつ言葉)」と言うと、「ハローじゃない、グーテンターク(こちらの方が正式な「こんにちは」)だろう」などといちいち直しながらミートボールを配る。筆者はライスサラダの担当だったのだが、トマトやパセリ、ヤギのチーズが入ったおいしそうなサラダを「いらない」という素振りで断る人が多いのに驚いた。「一度、メニューにお肉がない日があったら、男の人たちが怒りだして大変だったのよ」とユーディットが教えてくれた。
200人への配給はあっという間に終わり、ボランティアも同じ食事で昼食休憩を取る。不人気だったライスサラダの味を興味津々で試してみたら、その辺りのカフェのランチに出てきてもおかしくないおいしさだった。そういえばほかの町の難民宿泊施設で、中東出身の難民の人たちに気を遣って、ボランティアががんばって中東風料理を作ったら「まずくて食べられない」と不評だった話があったと聞いた。「意外とみんな、感謝しないんですね」と昼食で隣り合わせた常勤スタッフに話すと、「あら、人間には誰でも自分の好みがあるのがふつうじゃない」と笑っていた。
昼食後、キッチンの片づけを手伝っているうちに筆者の勤務時間は終了したので、この日の勤務シフトに入っていたノエミに宿泊施設内を案内してもらった。寝室スペースは男女で分けられていて、17歳以下の未成年の場合は男女問わずお母さんと同じスペースで休むことができる。しかしそれ以外は、家族も夫婦も男女別々だ。1スペースに6人分の二段ベッドがしつらえてあり、間仕切壁で仕切られてはいるが、音も光もすべて筒抜けの状態。1カ所で赤ちゃんが泣きだせば、それを全員が聞くことになる。それでもここは、緊急宿泊施設の中ではかなり恵まれている方なのだと聞いた。メッセ会場や体育館を利用した宿泊施設の場合は、広大なスペースに間仕切りもなく、ただベッドやマットレスが並べられている状態なのだという。
さっきから轟音がずっと室内に響いていることに気づいた。「雨が強くなってきたみたいね」とゾフィーが言った。そうか、エアドームの中にいると、雨の音がこんなふうに聞こえるのかと思った。悪天候のため、食事を終えた人たちはみんな室内で過ごしていた。共有スペースで若者たちがやっている卓球の音、誰かが奏でているギターや太鼓の音、そして雨の音が混然一体となってエアドーム全体に響き渡っている。
難民の人たちは最長で7カ月をここで過ごし、その後もう少しプライベート空間のある仮設住宅に移るのだと聞いた。(続く)
この日の昼食メニューのひとつ、ライスサラダ。見た目同様、味は悪くない
未成年の場合は、男の子もお母さんと同じスペースで休むことができる
[冒頭の写真]
雨が降ると、エアドーム全体にその音が響き渡る