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法律家の目でニュースを読み解く! 「働き方改革法案」に見る、雇用者主体の日本の労働市場(1)

法律家の目でニュースを読み解く! 「働き方改革法案」に見る、雇用者主体の日本の労働市場(1)

国会で審議入りした「働き方改革法案」が大きく物議をかもしています。「残業代ゼロ法案」とも批判されている「高度プロフェッショナル制度」などが盛り込まれた同法案の、何が問題視されているのか? 雇用の現場での現実と照らし合わせて、法律家の三上誠さんに解説いただきます。

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

働き方改革法案は果たして成立するのか?

今年の国会は、野党が閣僚の辞任を求めて委員会・本会議への出席を拒否する状況で進んでいますが、今国会会期中に現政権が退陣するなどよほどのことがない限り、この法律案は成立する見込みが高いです。衆議院・参議院で連立与党が法案可決に必要な議席数の3分の2を維持しており、制度上覆される可能性がないためですが、理由はそれだけではなく、日本の政治における法案提出までのプロセスにあります。

ある法律案が成立するまでには、実際には通常1年ほどかかります。通常国会が年に1回しかなく、そのサイクルに合わせて準備されるわけです。まず、成立の1年くらい前に審議会・公聴会といった有識者から話を聞く機会が設けられ、意見書のような形で法律案の骨子が作られます。その後、パブリックコメント募集などで一般国民からも意見を聴取した後、関係省庁との意見調整が行われます。同時に、法制局による審査、与党への説明・与党内での審議プロセスを経て、2月から3月頃に閣議決定され、3月には国会に提出されます。つまり、国会提出された段階では既に膨大なプロセスを経ており、関係省庁・与党への根回しは終わっているわけです。「根回し文化」が意思決定プロセスの核にあるともいえる日本においては、こうやって決められた法案を覆すためには、よほどの特別な理由や異例の事態が必要となることはご想像いただけると思います。
 

法案の気になる中身とは?

すでに報じられている内容によると、おおむね以下のようなものです。

(1)時間外労働の上限規制の導入
(2)年次有給休暇の促進
(3)割増賃金に関する中小企業への猶予措置の廃止
(4)フレックスタイム制の見直し
(5)勤務間インターバル制度の普及促進
(6)同一労働・同一賃金の導入
(7)高度プロフェッショナル制度の創設

この中でも特に(7)が雇用者側に有利な制度と言われており、導入についての反対意見が多いものです。これに加えて(8)企画裁量労働制の対象業務の追加、という項目がありましたが、これは根拠となるデータがそもそも信ぴょう性に欠けることが発覚し、安倍首相が衆議院の委員会で答弁撤回に追い込まれた結果、法案から外されました。
 

問題視される理由の根底にあるもの

そもそも労働法というものは、雇用関係という力関係において労働者が雇用者に対して圧倒的に弱い立場にあるため、雇用者側が労働者を好き勝手に利用することを防止し、労働者を雇用者と対等の立場に立たせることを目的としています。フランスやドイツなどでは労働組合が強い力を持っているのも、ひとえにこういった労働法に守られていることが理由として挙げられ、また長い歴史の中で培われてきた、労働者というひとりひとりの個人の人権や社会生活を尊重する考え方が、社会の共通認識として存在していることがあると思います。したがって今回の働き方改革法案のような、雇用者側に有利な制度の導入というのは、先進国における労働法の歴史の中では、かなりイレギュラーな流れになると言えます。

(後編に続く)

(写真はイメージ)