法律家の目でニュースを読み解く! なぜ、カルロス・ゴーン氏は保釈されないのか?(前編)
2018年11月19日、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏が東京地検特捜部に金融証券取引法違反容疑で逮捕されて以来、毎日のように新たな情報が流れ、分かりやすく言うならば「日本企業を食い物にしていた外国人プロ経営者」という姿が、日本メディアでは報じられ続けています。1月19日現在、ゴーン氏がいまだに身柄拘束を解かれていないため、私たちはゴーン氏本人の肉声による見解を聞くことができずにいます。なぜゴーン氏は保釈されないのか? また、五月雨式に新たな起訴状が提出され、勾留期間が延長され続ける理由は何か?を見て行きたいと思います。
協力:三上誠 元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。 |
却下された保釈請求
今年1月11日にゴーン氏が、新たに特別背任罪で起訴された直後、弁護人から保釈請求がされましたが、同月15日に東京地方裁判所がこれを却下したとの報道がありました。保釈というのは、刑事事件で起訴された被告人が、保釈保証金を納付することを条件に身柄拘束を免れる制度です。保釈保証金は被告人が逃亡するのを防止するための担保なので、被告人の経済力によって裁判所が設定する金額は異なります。
「保釈が認められない」ということは、検察側が起訴後も身柄拘束を続けること(=起訴後勾留)を裁判所が認めたということになります。この場合、通常ですと次に身柄拘束が解かれる大きな機会は、第一審の証拠調べが全て終わった時になります。この事件は本人が無罪を主張している「否認事件」で、被告人が外国人であるため通訳も入る関係上、裁判前の進行に係る協議にも時間がかかることが想定され、公判開始までは6カ月かかるだろうと弁護人も話しています。そのため、第一審の証拠調べが終わるまでには相当長期間、1年以上かかることも非現実的とは言えない事態となっています。
今回保釈が認められなかったということは、そのような長期間の身柄拘束を裁判所が認めたということです。
長期勾留の理由に「サウジアラビアの知人」
では、なぜ裁判所は身柄拘束を認めたのでしょうか。起訴をすれば、通常捜査は終結し、検察は集められる証拠は集めて裁判所に提出したことになります。容疑者逃亡の危険は保釈金の納付で担保できる建前ですので、起訴後も身柄拘束を続けるには、「証拠隠滅の恐れ」がある、ということを検察が裁判所に説明し、裁判所が身柄拘束継続の意義を認めたということになります。そうでなければ、保釈を認めなければならないのが本来の原則です。「証拠隠滅の恐れ」がある、というのは、重要な証拠を隠す、破棄する、あるいは重要な関係者と口裏を合わせてうその証言をするといったことが現実的にあり得る、ということです。
日産が司法取引までして協力していますから、証拠物や書類は十分確保できる時間があったはずで、これらについては今更証拠隠滅が危惧される理由にはなりません。また海外にある証拠書類については、そもそも強制的に収集することは不可能ですから、証拠隠滅云々を議論する余地はありません。
そうすると、問題は重要な関係者と口裏合わせをしたり、虚偽証言を画策することへの恐れであると言えます。身柄拘束を解いてしまえば、すでに繰り返し報道されている「サウジアラビアの知人」と口裏合わせをするだろう、という説明に、裁判所がある程度納得した、というところなのでしょう。現在、保釈請求却下の判断に対して、弁護人側から準抗告がなされており、裁判所の判断が覆る可能性はまだ残っていますが、私はその可能性は低いとみています。
(写真はイメージ)