法律家の目でニュースを読み解く! なぜ、カルロス・ゴーン氏は保釈されないのか?(後編)
2018年11月19日、東京地検特捜部に金融証券取引法違反容疑で逮捕されて以来、1月19日現在、いまだに身柄拘束を解かれていない日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏。なぜゴーン氏は保釈されないのか? また、五月雨式に新たな起訴状が提出され、勾留期間が延長され続ける理由は何か? 前編に引き続き、後編をご紹介します。
協力:三上誠 元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。 |
「人質司法」への疑問符
ここで裁判所の判断に対してあえて疑問を呈するならば、「サウジアラビアの知人」はすでに特定されているという点です。海外にいるとはいえ特定人との口裏合わせの危険があるからという理由だけで、場合によっては1年間以上になりうる身柄拘束の理由として、果たして十分といえるのか。また、何らかの手段によってその危険を解消し、被告人に負担の大きい身柄拘束を解くことはできないのか、ということが挙げられます。
これについては、まだ踏み込んだ議論がされていません。被疑者が容疑を否認することで、勾留による身柄拘束が長引く日本の司法制度における傾向は、「人質司法」と呼ばれ問題視されていますが、今後、事情をもっともよく知るカルロス・ゴーン氏の弁護人を通して、過去の常識にとらわれない議論が投げかけられることを期待します。そのような議論が「人質司法」の問題点を解消する契機になるかもしれないからです。しかし一方で、カルロス・ゴーン氏の弁護人は、東京地検特捜部長まで務めた経歴を持つ人物です。「検察を知り尽くしている」という点で有利な点があるかもしれませんが、逆に「公判までは保釈されないのは当然」といった検察側の常識にとらわれてしまっていないかとの危惧も感じます。
日本と海外の反応の差
日本での報道の現状を見ると、身柄を拘束されているゴーン氏側から発信される情報は少なく、明らかに検察側からのリークと思われる情報が日々提供されており、裁判の公平性の観点からはあまり望ましい状況とは言えません。
今後、ゴーン氏の長期間の身柄拘束が続くならば、「日本企業を食い物にしていた外国人プロ経営者」に対する国内からの反論は抑えられたとしても、被疑者の人権問題としての側面からも、国際社会からの理解を得ることは日々難しくなると思われます。日本の司法制度そのものに対して疑問や批判が増幅していくこと、それが日本という国家の信頼失墜につながるのではないか、と一人の法曹として懸念します。慣習にとらわれない創造的な議論によってこのような疑念が払しょくされることを願います。
2019/01/22 19:00追記:
東京地裁は1月22日、ゴーン氏の2度目の保釈請求を認めない決定を明らかにしました。
(写真はイメージ)
参考記事
法律家の目でニュースを読み解く! なぜ、カルロス・ゴーン氏は保釈されないのか?(前編)(2019/01/21)