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法律家の目でニュースを読み解く! どうなってるの? 芸能人と所属事務所との関係

法律家の目でニュースを読み解く! どうなってるの? 芸能人と所属事務所との関係

どうなってるの? 芸能人と所属事務所との関係

元アイドルグループTOKIOの山口達也さんが所属事務所から契約を解除されたことが大きな話題となっています。山口さんが問題飲酒によって起こした騒動および、本人がアルコール依存症なのではないかということが注目を浴びており、山口さんの契約解除についてはさまざまな角度から検証がなされています。今回はこの件を例に、芸能人と所属事務所との関係を、労働法や独占禁止法の見地から見ていきたいと思います。

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

―今回の山口さんの事件報道後の対応については、所属事務所の危機管理を指摘する報道もありました。

確かに今回の山口さんの問題について、所属事務所が表立って一切コメントを出さず、山口さんの所属していたグループのメンバーが矢面に立って記者会見するなどの対応は、近年ある程度定着している企業の危機管理手法と比べると、そこから大きく外れたものに見えました。事実関係の説明と処分の発表が遅かったことに加えて、未成年への強制わいせつ事件という、社会的影響が大きい事件であるにもかかわらず、再発防止策が何も発表されていないことも、非難の対象になる点だと思います。
 

―こういった場合に所属事務所が取るべき対応とは、どういうものなのか?

このような問題が生じた場合、必ず本人への処分とともに、再発防止策として所属タレントに対し、専門家による定期的な教育やケアが求められます。しかし、所属事務所は公式にはそのような再発防止策に関する声明を出していません。もしかしたら実施しているのかもしれませんが、通常危機管理の観点からはむしろ公表するはずですので、公表しない理由は読み取りにくく、実施されていないと考えるのが自然です。
 

―一般企業と芸能事務所とでは、危機管理のあり方が異なるものなのか?

そうですね。このような事件が起こるたびに、芸能界は非常に閉鎖性の高い、特殊なルールで運営されている業界であることが垣間見えます。その閉鎖性の維持を可能にしている大きな要因の一つが、芸能事務所と所属タレントの不均衡な力関係にあることは、間違いないでしょう。

今回のような事件・事故への対応のほか、一般人の感覚ではやや理解しがたい例が、芸能人の所属事務所からの独立が問題となるケースです。近年の例だけを見ても、能年玲奈(のん)さん、安室奈美恵さん、ローラさん、元SMAPの香取慎吾さん、稲垣吾郎さん、草彅くさなぎ剛さんなどが、それぞれ独立に際して苦労があったことがうかがい知れます。
 

―いわゆる芸能人の独立・移籍騒動の水面下では、何が起こっているのか?

所属タレントが独立、または移籍しようとする場合、芸能事務所が「独立したタレントを起用しようとするテレビ局などに対し、所属タレントの共演拒否などをチラつかせながら圧力をかける」「大手芸能事務所とマスメディアが一体化し、タレントが独立すると、マスメディアが一斉にバッシング報道を浴びせる」といった報告が、公正取引委員会になされています。また、そのような時でも各メディアは、有力芸能事務所に忖度そんたくして報道を行うため、「ほとんどの場合は証拠をつかめず対応に苦慮する」と芸能人の独立・移籍に関わったことのある弁護士たちはコメントしています。このことは、芸能界においては憲法において保証されている「職業選択の自由」、すなわち転職の自由が、見えない力で強く制限されていることを示唆しています。
 

―このような事態を改善する方法はあるのか?

本来は、たとえばプロ野球の選手会のように、労働法の下で労働組合を結成してタレント側の地位を向上させることが考えられますが、日本の芸能界における芸能事務所とタレントの力関係では、所属タレントが「労働組合を作りたい」と発言することもはばかられるのが現実でしょう。

しかし、変化の芽も少しずつですが見えてきています。もともと芸能界は、明確な監督官庁があるわけではなく、行政を通じた透明化・適正化が難しい業界でしたが、2017年7月7日に公正取引委員会が調査を開始し、同年8月4日から有識者会議を開催、2018年2月15日に報告書を公表しました。

報告書の内容によると、「大手芸能事務所が共同して所属タレントの移籍・転職を制限する内容を取り決めること」は独占禁止法の下で違法となる可能性があり、かつ「移籍・転職を制限する内容を取り決める行為が所属タレントの育成に要した費用を回収する目的で行われる場合であっても」違法であることには変わりがない、と断じています。つまり公正取引委員会は、芸能事務所が所属タレントの独立および移籍を阻んだり、その後の芸能活動を妨害したりすることなどに、違法行為の可能性があると警告しています。
 

―芸能事務所側はどのように主張しているのか?

芸能事務所側は、「専属契約の下で、芸能事務所が失敗のリスクも負いながら時間、労力、資金を投入してこそ所属タレントは長期的な成功を収められる」と主張します。これ自体に合理性がないとは言えませんが、公正取引委員会にここまではっきりと断じられてしまえば、芸能事務所側も何らかの対応を示すことは必要になります。そうでなければ今後、公正取引委員会からの強制調査を受けるという事態にも発展しかねません。

今後、芸能事務所側の反応とともに、公正取引委員会がさらに踏み込んで、業界に特化したガイドラインを設定するのかどうかなど、注目していきたいところです。

(写真はイメージ)
 

参考記事
タレントの飲酒事件からアルコール依存症を解説!(2018/05/06)