法律家の目でニュースを読み解く! ゴーン氏弁護士交代にみる、法曹界の裏側
カルロス・ゴーン氏の弁護人であった
協力:三上誠 元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。 |
「ヤメ検」弁護士の足かせになるものとは
今回のような辞任と弁護人交代は必然的であり、ゴーン氏側にとっては極めて合理的な選択であると見ることができます。大鶴弁護士は、元東京地検特捜部長という華やかな経歴を持つ弁護士であることから、捜査実務に最も精通しており、刑事事件において無罪を獲得するのに最善の選択である、と当初ゴーン氏側は考えたのだろうと想定できます。
さらにうがった見方をすれば、検察庁への人脈に着目し、便宜を図ってくれることを期待してゴーン氏側が大鶴弁護士を選択したという可能性も、まったくゼロではないかもしれません。しかしながら、元検事という肩書きが逆に足かせになる可能性があるということは以前の記事でも言及しました。
検察の仲間意識と結束の強さ
検事を辞任して弁護士として活動するいわゆる「ヤメ検」弁護士は、特に検事としての経歴が長くなるほど、検察庁という一つの官庁への所属意識も強くなります。犯罪現場で捜査に取り組む検察庁の検事たちの仲間意識や結束は大変強いのです。
また日本の法曹制度は、一度検事になれば基本的には裁判官や弁護士への転身は想定されておらず、特に民間から検事への登用はほぼないに等しいと言えます。このような法曹制度の下では、本来あるべき裁判官、検事という職務への純粋な使命感よりも、組織への忠誠心や帰属意識が高くなりがちなのは、ある意味当然の帰結です。
そのような 「ヤメ検」弁護士は、他の官庁からの転職組と同じく、人脈や、官庁での特異な実務経験を生かした会社組織へのアドバイザーとしての役割においては非常に有能でも、検察庁と全面対決しなければならない否認の刑事事件では、最善の選択とは言えないかもしれません。
求められるのは徹底的に戦える弁護士
裁判はいわば、究極の合法的なけんか、戦争であり、その要諦は相手の嫌がることを徹底的にやり抜くところにあります。検察庁はここに対しては非情なくらい組織的で徹底しています。ところが、その点において 「ヤメ検」弁護士は、検察庁への思い入れ、さまざまな人脈や組織経験が足かせになり、検察庁に対して徹底的に非情にはなれず、かえって依頼者の利益に徹することができないということは想像しうるところです。ビジネス現場にいる弁護士の立場から見れば、選択すべきは、検察庁の嫌がることを徹底的にやってくれる弁護士、ということになります。その点で、遅蒔きながらとはいえ、ゴーン氏側が検察庁を相手に無罪を獲得した実績の多い弘中弁護士を選択したのは、ビジネス現場の選択の必然であり、極めて合理的というほかありません。
一切しがらみなく依頼者の利益に徹してくれる弘中弁護士の登場で、 ゴーン氏をめぐる刑事事件は新たな局面を迎えたといえるでしょう。
(写真はイメージ)
参考記事
法律家の目でニュースを読み解く! ゴーン氏保釈の背景と新弁護団の「創意工夫」(2019/03/08)