法律家の目でニュースを読み解く! ゴーン氏保釈の背景と新弁護団の「創意工夫」
カルロス・ゴーン氏が、3月6日に保釈されました。弁護人の交代後、初めての保釈請求が認められるという急展開で、前弁護人の下では2度にわたり却下されていた保釈請求があっさりと認められたことに、驚いた方も多いのではないでしょうか。
これにはいくつかの要因があるかとは思いますが、保釈許可を決めるのは裁判所なので、裁判所の目線に立って考察してみたいと思います。
協力:三上誠 元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。 |
裁判所の姿勢に影響与えた国際世論
ゴーン氏の勾留をめぐっては、すでに前弁護人の担当時、有価証券報告書虚偽記載の罪での2度目の逮捕の際に、検察側が要求した勾留延長請求が認められず、準抗告も却下されていたことは注目に値します。東京地検の特捜部が被疑者の身柄を拘束して立件を目指している事件にしては厳しい取り扱いであり、普段はプレスリリースをしない裁判所があえて準抗告の却下理由を公表して声明を出すなど、裁判所が特に国際世論を気にしている様子が伺えました。
これは裁判所および裁判官の思考として、「国際世論に左右されることはしないが、批判に耐えられるだけの厳格な審査をしている」という姿勢を、強く打ち出したい思惑があったと推測することができます。これにより、裁判所と検察庁の間にはいつも以上に緊張感が生まれていました。
従って裁判所としては、保釈についても同じスタンスで考えることが想定され、ゴーン氏のケースでは、以前の記事でも指摘したように、「証拠隠滅の恐れ」の有無が分水嶺になることは十分予想できたわけです。
すなわち、「証拠隠滅の恐れ」が現実的にはないにもかかわらず保釈しないとなれば、対外的、国際的な批判の矛先は検察庁ではなく裁判所に向かい、日本の裁判所が国際的な信頼を失うことになる、という重圧が担当裁判官にかかっていたと考えられます。
保釈を勝ち取った新弁護団の手腕
そうすると保釈を目指す弁護人の仕事は、「これだけ条件をつけたなら『証拠隠滅の恐れ」は現実的に絶対あり得ません」という保釈条件を創意工夫し、条件次第で保釈しようとしている裁判官の背中を押してあげることに尽きるわけです。
このような前例のない事件においては、保釈条件を創意工夫することが法律家には求められます。新たに弁護人に選任された弘中弁護士とそのチームは、このような創造性において前弁護士のチームより優れていたのだろうと言うことができます。
実際の保釈条件には報道で見る限り、東京都内に居住地を制限、パスポートを弁護人に預け、海外渡航は禁止、日産幹部など事件関係者への接触禁止、といった一般的な条件のほか、住居入口に監視カメラ設置、携帯電話はインターネットとメールが使用できず、通話先記録も裁判所へ提出義務があり、日中は弁護人の事務所に滞在する、など数々の細かな条件がつけられています。
インターネットを通じた関係者との口裏合わせさえもできない監視体制ができていると判断されて保釈が認められたのですから、同種事例について貴重な先例となるでしょう。
もちろん、前弁護人も創意工夫に尽力したはずですが、当初保釈条件においてフランス国内に居住地を指定したり、効果に疑問のあるGPSによる監視を提案するなど、結果論ではありますが、被告人の意向に寄り添いすぎてしまい、保釈条件の提案において厳しさを欠いていたと言わざるを得ません。
今回の件をきっかけに今後も、これまでなら見過ごされていた長期勾留による「人質司法」の問題点が、国際的監視の中で露わになると同時に、それを解消する創造的な議論がなされていくことが期待されます。
ひとつ残念なことは、海外メディアも含めた国際的監視があってこそこのような法曹三者、特に裁判所と検察庁との間に緊張感が生まれ、創造性のある議論に発展したと言えることです。今後は国内事件においても、メディアや国民の監視のもと、法曹三者、特に裁判所と検察庁にこの事件と同様の緊張感が引き続き維持されることが望ましいと言えます。
(写真はイメージ)
参考記事
法律家の目でニュースを読み解く! ゴーン氏弁護士交代にみる、法曹界の裏側(2019/02/14)